漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第二話を小児科医が解説! ボタン電池誤飲はヤバい事故

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は10/5に発売された週刊スピリッツから新しく連載が開始されたマンガ「プラタナスの実」の第二話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれる漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

東元先生にも企画について許可頂いており「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、毎週がんばって考察・解説していきます。

 

今回は少しだけ主人公の小児科医 鈴懸真心先生の家族に関する情報が描かれていましたね~。そして住んでいるアパートのお隣さんのお子さんがボタン電池を誤飲するというアクシデント!真心先生の冷静な状況判断と、誤飲したお子さんのお姉ちゃんの的確な情報提供のお陰で、可及的速やかにボタン電池は摘出され、事なきを得たようです。。よかった。。

 

主人公「鈴懸真心」先生の家族について

前回のお話でもすでに明らかになっていたことですが、真心先生のお父さんは医者のようですね、さらに同業者の小児科医。

父親が真心先生へ宛てた手紙の住所を見ると、、、北海道北広島市

google mapより引用

ここです。札幌市の少し南に位置する町ですね。

私の周辺のドクターにも、医者家系に生まれて自分も医者になったという先生がいます(自分はそうではないですが)。

医者家系と言っても色々な家庭があると思いますが、地方で大きな病院を経営しているような家系だったりすると、帰省の度に「いつまで関東に居るんだ、そろそろ帰ってきて家業を手伝ってくれ」といったプレッシャーがあったり…といった話も実際聞きますね。

 

主人公「鈴懸真心」先生と家族との確執?について

今回のお話で、真心先生は自分の父親から送られてきた手紙を捨てようとしていました。「絶縁していた父さんからの手紙だった…」という記載がある通り、真心先生と父親の間には確執があったようですね。

読めた手紙の一部分から察するに、成人した自分の息子に対して「マコちゃん」という呼び方をする父親で、真心先生同様少しキャラが濃そうな印象がありますね~。今後きっと漫画にも登場してくると思うので、どのように物語に絡んでくるのか…気になるところです。

どうやら父親には、北海道北広島市の病院で小児科でクリニックを開業するなり、総合病院の小児科のトップとして赴任するなりといった大きな転機があったようですね。そこで、家を出て行った息子に対して「一度戻ってこないか、会えないか」と手紙をしたためた。という状況のようです。

真心先生が過去に父親とどんな確執があったかは、追々物語の中で語られるのだと思われますが・・・

真心先生もちょうど「理化学研究所での契約が次の年の3月に切れるところで、この先の勤務場所が決まっていない」という転機の時期でしたよね父親が北海道で開業(赴任かもしれないけど)する大きな転機があるタイミングと、ピタリと重なることになります。

おそらく…真心先生は、絶縁していた父親のもとに小児科医として戻ることになるのではないでしょうか?

原作者の東元俊哉先生のご出身が北海道、という所もキーワードとして重要な気がします。物語の舞台は、川崎市から北海道北広島市へ!という展開が、より現実味を帯びた気がしてきませんか?

 

第二話の「ボタン電池誤飲」、真心先生の臨床能力の高さがまた発揮された!

第二話では、真心先生の住んでいるアパートのお隣さんのご家庭で事故が起こりました。

ケーキ屋さんのご両親と、お子さん二人(姉 由奈ちゃん、弟 結弦君)の4人暮らしのご家庭。

クリスマスの夜、かきいれ時にでケーキ屋さんは大忙し。子ども2人で留守番をしていたところ、お姉ちゃんの由奈ちゃんが目を離している間に、突然弟の結弦君の様子がおかしくなる、というお話でした。

もともと真心先生とお隣さんの関係性は良好で、お姉ちゃんの由奈ちゃんは、真心先生を「マー君」と呼んで普段からなついている様子。…さすが真心先生。

留守番中に、様子がおかしくなった弟 結弦君にびっくりしたお姉ちゃん 由奈ちゃんは、真心先生に助けを求めます。真心先生がお家に駆けつけてみると、結弦君は嘔吐し手足をばたつかせながら苦しそうに床に転がっている状態!!!

これ、小児科医でも相当あせる状況ですよね…。ひとまず救急車呼ばなきゃ!となるところですが、真心先生は冷静沈着に状況分析と診察。。。

おそらく、まずABCの確認をしたのだと思います。救急の鉄則のA・B・C、つまりAirway(気道)、Breath(呼吸)、Circulation(循環)の確認ですね。

空気の通り道がしっかり開通していないと、途端に呼吸が苦しくなる⇒呼吸不全⇒心停止⇒死亡…と、子どもでも大人でもすぐに命が危険にさらされます。気道Airwayが開通していることは、救命のためにまずはじめに絶対不可欠な要素です。

結弦君の、「苦しそうにゼイゼイして、手足をばたつかせながら床に転がっている姿」は、息をしようとする「呼吸」はしっかりしているために、空気の通り道「気道」がヤバくて呼吸が苦しくなっていることを想起させられます。気道がヤバい状況だと、なーんにも救命用具がない民家では、すぐに呼吸停止⇒心肺停止になってしまうため、やはり一番優先されるのは救急車の要請だと思われます。

多分、真心先生は「結弦君はは嘔吐してゼイゼイしているものの、気道・呼吸・循環は大丈夫、状況はそこまで差し迫ってはいない」と判断したのだと思います。そこで一言、お姉ちゃんの由奈ちゃんに聞いています「結弦君は下痢はしていない?最近体調は壊してなかった?」すぐに由奈ちゃんは「うん!(体調はくずしてなかった)」と答えています。

ここで、真心先生の「鑑別診断」が発動! 主な症状は・・・嘔吐、呼吸が苦しそう、かな?

硬膜下血腫、髄膜炎、胃腸炎、食中毒、気道異物、食道異物、脳震盪、薬物摂取…

「体調は崩していない」「調子が良かった子どもが急に調子が悪くなった」という前情報から、外因系の病気を主に頭の中に思い浮かべていますね~。うーん、的確!

外因系疾患というのは「病気の原因が外からやってきたもの」という意味で、病気のカテゴリーで言えば、「ケガ、虐待、薬物や異物を間違って飲み込んだ」といった類のものです。

小児科医は基本的に「内科医」なので、救急の経験に長けていないと、外因系疾患に疎かったり苦手意識を持っていたりするドクターもいます。状況証拠から、適切に外因系疾患を疑い、由奈ちゃんの助けもあり、ボタン電池誤飲を起こしたことが判明します。パチパチパチ~

 

でも、ボタン電池誤飲はこわいですよ~。ボタン電池誤飲が怖い理由を次に挙げていきたいと思います。

 

「ボタン電池誤飲」が恐ろしい理由

ボタン電池誤飲が恐ろしい理由としては、

 ひっかかる場所が、壁が薄く破けやすい食道であることが多く、リチウム電池だったりすると20分くらいで食道が破れる事態になりかねない。食道が破れてしまうと、縦隔炎という非常に厄介な感染症を起こすことがある。

ということです。

噛みくだいて説明しますと、まず異物を飲み込んだ時、食道には3か所引っかかりやすい所があります。

絵で書いてある、食道の入り口の部分真ん中の部分(気管支・大動脈弓が重なる部分)横隔膜に入る部分の3つですね。

異物誤飲の場合多くは、はじめの所でひっかかります。第二話の結弦君のケースでも、レントゲンを見ると食道の入り口部分で引っかかっているようですね。

食道は非常に壁が薄い消化管という所が厄介で、壁が薄い=損傷を受けると破れやすいという事です。そしてボタン電池の場合、微量な電流を発することで粘膜障害を引き起こすため、食道の一部に引っかかったままで放置されるとその場所の食道粘膜が障害されて、潰瘍を作り最終的には穴が開きます(穿孔といいます)。

さらにリチウム電池では30分~1時間で潰瘍形成がはじまるため、さらに緊急度が高くなります。

独立行政法人 国民生活センターHPより引用

食道が破れると、肺と心臓の間の空間(=縦隔→じゅうかくと言います)に消化液が入り込むことになります。もともと口の中にはたくさんの細菌がいるため、細菌が唾液もろとも縦隔に入り込むことになり、体の奥深く、心臓や肺の近くで細菌感染を起こしてしまう。これは、縦隔炎とう感染症で、非常に重篤で死亡率が高い感染症です。

小児科学会のHPの障害注意速報-Injury Alert-にも、リチウムボタン電池の誤飲についての報告がされています。

集中治療室への入室、全身麻酔+内視鏡で摘出、最終的に50日間も入院期間がかかったケースもあり、やはり重症な症例は

。興味のある方はご覧ください。小児科学会のHPの障害注意速報Injury Alert

 

ボタン電池誤飲の治療は、漫画でもあるようにマグネットカテーテルという、先に磁石のついているカテーテルで引っ付けてとってくる方法をとりますが、上手く取れないときや磁石でくっつかないもの(100円玉、10円玉)が挟まっていたときは、フォーリーカテーテルという尿道カテーテルとして使用するものを異物の先の消化管まで入れて、バルーンを膨らまして引っ張ってとる方法をとります。

これがマグネットカテーテルで・・・

こっちがフォーリーカテーテル(尿道バルーン用のカテーテル)。風船の部分に異物をひっかけて摘出します。

 

摘出は、食道損傷が極めて危ないときには集中治療室で、全身麻酔下で内視鏡を使いつつ小児外科医も立ち合いの元で行いますが、これもケースバイケースで、食道損傷のリスクが低く時間もあまりたっていない時には、鎮静も浅くするか無い状況でババっと治療してしまうこともあります。

漫画では一瞬で終わっていますが、実際の処置は、口からカテーテルを無理くり入れていく作業になるので、子どもも吐き気と戦いながら行う大変な処置です。小児科医的にも、異物が食道から上がってくる時に、下図のように空気の通り道(気道)に異物が近づく時間帯があるわけで相当緊張します。「食道異物」が治療で「気道異物」になってしまったら、より重症な状態になってしまうわけですから。

 

今回は以上となります。

これから「プラタナスの実」、さらに盛り上がっていく印象がありますねぇ。子育て世代のお父さん、お母さんにも是非読んで頂きたいリアルな小児科医の漫画だと思います。次回もとっても楽しみです。

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