漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第17話を小児科医が解説! チャイルドスペシャリストってすごい!

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第17話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1集も発売され好評のようです!

 

前回は、久々に急性骨髄性白血病のピアニスト「トモリン」のお話が進みました。

病気のこと、今後の自分のことが心配になり、悪夢を見るようになってしまったトモリン。相談された真心先生は不安な表情の彼女をみて、温かい飲み物を飲みながら話をすることにします。

話の中で、真心先生はトモリンがお父さんと喧嘩中で1年も顔を合わせていないことを知ります。真心先生は自分も父親との間に溝があることを思い、トモリンの姿に自身の状況を重ねます。

「自分も父さんと向き合ってみるから、トモリンもお父さんと向き合ってみようよ」

そう話す真心先生は、トモリンに「両親に宛てた手紙を書いてみたら?」と提案します。

そしてトモリンが作った手紙は…、なんと自分が病気を克服した時の復帰ピアノコンサートの招待状だったのでした。

トモリンは真心先生からお父さんへ手紙(=招待状)を渡してもらうように頼んだのですが、真心先生は手紙を渡しませんでした。

お父さんに直接あった真心先生は、娘(=トモリン)からの手紙があることを伝えた上で、お父さんに敢えてこう言ったのでした。

「これは僕からお渡しするのは、あまりにも重たすぎます。時間がある時(ともりんから)直接これを受け取って頂きたいんです。」

 

今回は、いよいよ、トモリンとお父さんの対面ですね!なんだかドキドキしますね~。それでは見ていきましょう!

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第17話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

 

いまだに娘(=トモリン)に面会に来ることが出来ないでいたトモリンのお父さんは、ある日お母さんが書き残したメモを見つけます。

「次の金曜日、朋美の手術があります。あなたも来てください。家族の力が必要です」

急性骨髄性白血病のピアニスト「トモリン」は、治療に必要な"中心静脈カテーテル"を体内に入れる手術を受ける予定だったのです。

 

手術の当日、トモリンは”チャイルドスペシャリスト”の青葉さんから優しく手術内容の説明を受け、真心先生の父親の小児外科医、吾郎先生の執刀のもと、中心静脈カテーテルの挿入手術に臨みます。

手術の麻酔の間…もうろうとする意識の中、トモリンは過去の記憶を思い出していました。父親と大喧嘩の最中「お父さんなんて もういなくたっていいんだ」と暴言を吐いてしまったことを。

 

…手術は無事終わり、トモリンは病室のベッドの上で目を覚まします。そこにはお母さんと、久方ぶりに会うお父さんの姿がありました。

 

久しぶりに顔を合わすお父さんに、トモリンは気が動転し布団の中に隠れてしまいます。そして顔を伏せながら「自分がこうなったのは自業自得。天狗になってた所もあるし、お父さんの言うことも聞かなかった。合わす顔がない。」と話すのでした。

そんなトモリンに、お父さんも緊張しながらゆっくりと話し出します。隠れてトモリンのピアノのライブを見に行っていたこと、涙が出るほど感動したけれどトモリンと顔を合わすとどうしてもそれが言えなかったこと…。そして涙ながらに「父さんの事 どう思ってくれても構わないから、元気になってくれ」と伝えたのでした。

トモリンは布団を半分被ったままでしたが、両親への手紙(復帰コンサートの招待状)を直接父親に渡すことが出来ました。そして、過去の暴言のことを謝り、病気を治してまたお父さんからピアノを教わりたいと話すことが出来たのです。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第17話より

真心先生考案の手紙作戦(=復帰コンサートの招待状)は、無事トモリン自身の手からお父さんに渡りました。大成功!といった所でしょうか。

大喧嘩していたトモリンとお父さんでしたが、お互い素直になって本心を伝えあったことで、仲直りすることが出来ました、本当に良かったですね~。

お父さんも、トモリンが病気になった時には「絶対見舞いに行かない、好き勝手やっているから病気になるんだ」なんて言っていましたが、やはり本心は娘のことが心配でたまらなかったようです。なんたって自分の娘ですし、病気が病気ですからね。

Dr.アシュアも自分の子どもが病気で入院していたとき付き添ってました。白血病ほど重症な病気ではなく、病気の事は分かっているし経過も予測がついていましたが、それでも心配は心配でした。誰だって、小児科医だって、自分の子どもが病気の時は心配になるものです。

 

そして、今回の投稿では2つDr.アシュア的に気になることがありました。

1つ目はチャイルドスペシャリストが手術の内容を説明していることですね~。通常、手術は手術をするDr.が説明します。手術の内容から、合併症やリスクなどの説明は、やはり執刀する医師が説明し、家族及び本人から同意を得ることが基本です。このあたり、説明していこうと思います。

2つ目は、中心静脈カテーテルですね。これは話の中でも説明がありましたが、もう少しだけ深く説明をしてみようと思います。

 

手術の説明をチャイルドスペシャリストがする??これってホントにリアルの話??

前述しましたが、手術の説明は基本的に執刀する外科医がします

Dr.アシュアが勤務している病院は子どもの集中治療室(PICU)があるので、術後の患者さんを小児科医が安定するまでPICUで管理したりしています。

大まかな流れとして、手術は外科医が行い、術後の管理は小児科医がメインで行い、落ち着いたら小児科病棟に出て外科医がメインの管理に戻る・・・みたいな感じになります。

両親への手術の説明は外科医から行うのですが、術後の管理中に両親へ説明を要する処置を小児科医が行う場合には、小児科医から両親へ書面で説明します。

つまり何が言いたいかというと「手術や処置は、実際にそれを行う医師が直接!両親に説明を行うのが基本」という事です。

 

なので、今回のお話の中でチャイルドスペシャリストの青葉さんが、トモリンにカテーテル手術の説明をしていた所にちょっと??がつくわけです。

 

しかし、これにはちゃんとした理由があります。

おそらく、マンガの中では省略されていた話として、すでにトモリンの両親は執刀医である鈴懸吾郎医師から、中心静脈カテーテル挿入手術についての説明を書面でしっかり受けており、同意をしていたはずです。じゃないと手術はできませんから。

その上で、さらにチャイルドスペシャリストの青葉さんが、追加でトモリンに手術の説明をしているという形だと思います。

じゃあ両親への説明が終わっている状況の中、青葉さんはいったい何をしているのでしょうか。。

 

チャイルドスペシャリストってどんなことをしている職種なのでしょうか。

チャイルドスペシャリストのお仕事の目的

・子どもと家族が入院中に抱えるストレス・不安・恐怖を最小限にする

・子どもが安心して医療体験(検査、処置など)に臨めるようにサポートする

・子どもが自分の病気に向き合い、前向きにとらえられるようにサポートする

チャイルドスペシャリストに興味を持たれた方は、こちらのリンクから大学病院のサイトに飛べます。

つまり青葉さんは「トモリンが彼女の年齢で出来るレベルで手術の内容を理解し、前向きに手術に向かえるように、手術の内容を分かりやすく噛みくだいて伝えていた」んじゃないでしょうか。

 

一般的に手術の内容の話はお子さんには難しいはずです。

お父さん・お母さんですら、医師からの手術の内容の説明はついていくのが精一杯で、後で書面でしっかり読んでなんとかかんとか理解する…ということが多いでしょう。子どもならなおさらチンプンカンプンです。

人間、これから何をされるか分からないというのが一番恐怖です。

これから自分に起こることが理解でき、先が少しでも見えることで、恐怖が和らぎ検査や処置・手術といった医療体験を前向きにとらえられるようになるんですね。

トモリンの年齢位なら、マンガ出てきたような文字と絵で理解を深めることが出来ます。しかし、もっと小さいお子さんの場合には、遊びの中で医療処置について理解を進めていきます。例えばお人形を用いた点滴ごっこ・採血ごっこや、MRIを模した大きな模型と人形でMRI撮影ごっこをしたり…ですね。

事前にこれからやる医療処置について、年齢や子どもの理解力に合わせた手法を用いて説明することが大事という事ですね。手術の説明の時に、実際に手術室を見学するツアーを組んだりも良く行われている手法の一つです。

 

このような青葉さんがやっていた「心の準備のための事前説明」のことを専門用語で「プレパレーション」と言います。

プレパレーションをすることで、お子さんはより安心した状態で検査や処置に臨めるので、検査や処置の成功率が上がったり、余分な麻酔薬が減ったりと、お子さんだけではなく医療サイドにも利点があるところが素晴らしいんですよね。

うちの病院にも昔はチャイルドスペシャリストの女性がいた時期がありまして、本当にお世話になりました。ずっといて欲しかったんですけど、色々な理由もあって離職されたんだったかな…。

小児医療には欠かせない職の一つだと思いますが、現実的には人材不足で大学病院やこども病院クラス以外の病院では見かける事はほとんどありません。北広島市総合医療センターうらやましい・・・。

 

中心静脈カテーテル挿入手術に関わるアレコレを説明!

そもそも中心静脈ってなんなんだよという所など、色々と分からない所があるのではないでしょうか。今回は基本的な所を説明してみようと思います。

「中心静脈」ってなに?

今、ブログをご覧の皆さんは手でスマホやPCをいじっているはずです。さあ、手の甲を見てみましょう。浮き出た血管が見えますね?

これが静脈です。心臓から送り出された血液が役目を果し、また心臓へ戻っていく道=血管が静脈、です。

 

さあ、この静脈を手からどんどん体の真ん中に向かって追って行って下さい。

肘の内側あたりで太めの静脈が見えると思いますが、もっと上の二の腕や肩のあたりに行くと静脈がどこにあるのか分からなくなってくるのではないでしょうか。

 

静脈は、最終的には心臓に合流するのですが、心臓に近づけば近づくほど細い静脈が集まって段々太く、壁が厚く丈夫になってきます

そして、体の表面にあった静脈は、心臓に近づけば近づくほど、体の深い所に位置するようになってきます

最終的に心臓に合流するところの静脈2本、上から心臓に合流する「上大静脈」、下から心臓に合流する「下大静脈」を中心静脈と呼びます

 

なぜ、中心静脈にカテーテル(くだ)を入れる必要があるの?

前のブログでも書きましたが、白血病の患者さんは年単位の治療が想定されます。

抗がん剤を長期に投与するということは、何度も何度も点滴をしなければいけない、という事です。

さらに病気の状態を評価するために、これまた何度も何度も血液検査をしなければいけません。

 

点滴をしたことがある人はわかると思いますが、良く点滴をするのは、先ほど説明した手の甲の静脈や、前腕の静脈の所です。

しかし、この場所の点滴は長く使えたとしてもせいぜい1週間がいい所です。なぜなら、腕や足の先端の静脈は壁が薄く、細くもろいからです。しかも1回点滴を入れて使った静脈は、次に同じ静脈を使おうと思っても上手くいかないのです。血管がつぶれていて、キレイに元通りに治るまでは使えないからです。

治療が長期にわたる白血病において、手や腕の先の細い静脈を点滴に使って治療をしようとすると、どんどん使える血管が無くなっていき、終いには点滴をする場所が無くなってきてしまい、困ってしまいます。

こういったことを避けるために先ほど話をした中心静脈への点滴が必要になります。中心静脈は血液の流れる量が多く、壁も分厚いのでそうそう使えなくなることはありません。

中心静脈に点滴を入れておけば繰り返し使うことができるため、何度も何度も手や足の先に点滴を刺す必要が無くなります。

また、中心静脈は血液の流れる量が多く、点滴に使う管も太いため、点滴に注射器をつけて引っ張ると、簡単に血液を逆流させることができます。つまり、プスっと針を腕に刺すことなく、楽に血液が採取できるんですね。これも中心静脈カテーテルの利点の一つです。

 

中心静脈に管を入れる方法は何があるの?やり方は?

実は中心静脈にカテーテルを入れる方法は、手術で入れる方法と、病室で入れる方法とがあります。

 

すごくアバウトな理解だと

・長期で使う簡単には抜かない管は、手術室で入れる

・短期で抜いてしまうタイプの管は、病室で入れる or 手術室で手術のついでに入れる

という感じです。

 

いずれの「管」にしても中心静脈である上大静脈・下大静脈はとても体の深い部分にあるので、直接刺してカテーテルを入れるのは基本的には行いません。

ですから、中心静脈に近い静脈で、比較的浅い部分にある太めの静脈を刺して、そこから管(=カテーテル)を入れます。そして、先端をずずいと進めて中心静脈まで持ってくる、というのが基本的な中心静脈カテーテルの入れ方になります。

刺す場所としては、首の付け根辺りにある「内経静脈」腕からの静脈が集まる鎖骨の下あたりにある「鎖骨下静脈」足からの静脈が集まる「大腿静脈」がメジャーな場所です。

 

長期で使う中心静脈カテーテルは、実は複数種類があるのですが、マンガの中で書かれていたのは「体外式カテーテル」と言われるタイプのもので、ブロビアックカテーテル®、ヒックマンカテーテル®と呼ばれています。二股だからヒックマンかな?

長く使うため、病室よりもより清潔な環境である手術室で入れたいということもありますが、皮膚の間にトンネルを作る必要があり、全身麻酔で入れます。どう考えても麻酔しないと痛いですよね。

カテーテルの途中にあるケバケバした「カフ」という場所を、上手く皮膚トンネルの中に位置するように設定することで、カフが皮膚と絡みついて固定され非常に抜けにくくなります

長期に安全にカテーテルを使うという上では、「抜けにくい」というのは非常に大事なポイントなんですね。

ただし、カテーテルにばい菌がついて血液中にばい菌が入ってしまう「カテーテル関連血流感染症」になってしまった場合はとても大変です。カテーテルを入れ替えることになってしまうと簡単には抜けないので「手術」して入れ替える必要があります。これは、大変なことです。

 

短期で抜いてしまう管は、皮下トンネルを作る必要がありませんので、病室で局所麻酔で入れることが可能です。

もちろんお子さんの年齢や状態によって眠らせて鎮痛もしっかり行い入れるのですが、いずれにせよ病室や集中治療室で入れることが出来ます。

カテーテルには「カフ」はついておらずカテーテルは皮膚に糸で縫い付けておくだけの固定です。抜きやすい反面、抜かれたくない時に事故で抜けてしまう(=事故抜去)ことも起こり得ます。ですから、必要が無くなったら早く抜く必要があります。

 

最後に 

今回は、トモリンとお父さんが仲直りできた感動的な回でした。これから長く険しい治療が始まるわけですが、今回家族一丸になれたことはとても大きいですね。治療が上手くいってくれることを祈るばかりです。

最後の方に、真心先生のお兄さんの英樹先生が北広島市の駅に着いた描写がありました。そろそろお兄さんがストーリーに絡んできそう!

さらに、片足をひきずる女の子「莉乃ちゃん」とおそらくおばあちゃんが北広島市総合医療センターに行きのバスを探していましたね。

片足を引きずる…、これ小児科医的には一発入院の可能性がありうる症状の一つだったりします。。すごく、すごく気になる描写ですね。

次回はお休みのようです。次々週がまちどおしいですね!それでは~。

 

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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