漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第10話を小児科医が解説! 術後の麻酔を延長って大丈夫なの!?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第10話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

じつは、原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして、「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

当ブログも2021年で初めての投稿になりますが、プラタナスの実も2021年はじめてのお話「第10話」になりますね。

 

第9話では、マコ先生が職場をうつり、父親が立ち上げる北広島市総合医療センターの小児科で働き始めた所から始まりました。まだ父親と仲直りが出来ていないマコ先生は、いつも通りのコミュ力が発揮できず、新しい職場の職員にもまだ心を開いていない感じでした。

そんな中、病棟の患者さんがいなくなってしまう事件が発生します。その患者さんは市議会議員のお子さんであるとのこと。トラブルの臭いがプンプンします!

それでは見ていきましょう!

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第10話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

父が立ち上げる北広島市総合医療センターの小児科で働き始めた主人公の「鈴懸真心(すずかけまこ)先生」。さっそく「入院中の患者さんが病棟内からいなくなる」というトラブルに見舞われます。

いなくなったのは急性虫垂炎(いわゆる盲腸)で入院している4歳の男の子、小林泰介(こばやしたいすけ)君。

実は今日は彼の予定手術の日!皆で捜索すると、幸いにも泰介君は病院内で見つかりました。

マコ先生が優しく語りかけると、泰介君は泣きながらも病棟から逃げ出した理由を教えてくれました。どうやら、手術日に付き添う予定の母親(市議会議員)が来なくなり、寂しくなったのが原因だったようです。

ようやく母親に電話連絡がつくと、なんと母親は手術の時間にも間に合わず、来院は手術終了の1時間後になるとのこと!

それを聞いた手術の執刀医(小児外科医)は「他の手術予定もあり手術時間はずらせない」と言いますが、

マコ先生は「泰介君が目覚めたときに母親がいられるように、術後の麻酔を1時間延長できないか」と提案します。

新参者のマコ先生に、小児外科医・麻酔科医は猛反発! しかしマコ先生、ひるむことなくこう返します。

「僕ら小児科医は病気を治すことだけが仕事ではない。こどもと家族の心のケアまで考える必要があるのではないか」

マコ先生のお父さんの後押しもあり、泰介君の手術は、術後の麻酔を1時間延長する方針が固まったのでした。

・・・

手術が終わり、泰介君が目を覚ますと、目の前には母親が。

目に涙を浮かべながら見つめている母親をみて、泰介君は満面の笑みを浮かべるのでした。

 

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第10話より~

・・・病棟から逃げ出したお子さん「泰介君」の親が市議会議員というのは分かっていましたが、お母さんが市議会議員だったんですね。前回、マコ先生とお父さんが治療方針で揉めるんじゃないかと予測していましたが、見事に裏切られました。。

代理の秘書がいるにしても保護者不在の上で手術を開始してしまうのは、よほどの緊急事態でなければリスキーです。泰介君のママは、代理に秘書をよこすあたり、シングルマザーだったりするのかも。本当なら、病棟から逃げ出せるくらいの全身状態のお子さんなら、翌日に手術延期とかが現実的なんでしょうけど・・・。

 

お話のはじめの所で、小児外科医の八柳(やつやなぎ)先生、麻酔科医の久守(ひさもり)先生、放射線技師の音松(おとまつ)先生が一緒に仲良く休憩していて、マコ先生のウワサ話をしているシーンがありました。診療科や部門の違う人達が一緒に食事したり休憩したりしているのは、どちらかというと小規模の病院でよくみられる光景な気がします。ちょっと懐かしい~。

Dr.アシュアも、昔、クリニックよりは大きいけど市立病院ほど大きくはない、小児科医が1-2人しかいないような田舎の病院で働いた経験があります。そこでは小児科の入院のベッドも少ないので仕事は基本的に外来業務のみで、仕事が終わるとその日働いていた看護師さん、薬剤師さん、事務さんとかを誘ってほぼ毎日一緒にご飯を食べに行って帰るという生活をしていました。

大きな病院では味わえないようなアットホームな感じがとても良かったんですが、そういう濃密な人間関係の職場は苦手という人もいるでしょうし、外から新規で入職した人にとっては初めは居心地が悪いかもしれませんね。

北広島市総合医療センターは病院の箱としてはかなり立派な印象ですが、休憩時間の様子からみるに…良く言えば部門ごとの垣根が低く団結力のある病院ですが、悪く言えばちょっとだけ排他的な印象のある病院なのかもしれませんね。

マコ先生が提案した「麻酔時間を1時間延長する」というのは…個人的には賛否両論なんだろうなぁ。というか現実的には難しいんだろうなぁ。不必要な薬剤投与をすることになるので、保護者の同意なしに行うのはまずいです。マコ先生の気持ちはわかるよ~気持ちはわかる。目覚めた時にお母さん居て欲しいよね。

ということで、漫画では端折られていると思いますが、きっと手術を親がいない状態で決行することや、麻酔時間を延ばすことは、少なくとも電話で母親に同意を得ているんでしょう!!きっとそうだ!!(笑)そうに違いない!!(笑)

今回の解説では、お話の中で麻酔科医の久守先生が言っていた「鎮静を追加するならPICUでの管理を条件にさせてもらう」というセリフに注目してお話していきます。まずはそもそもPICUなのですが、医療に明るい人じゃないと聞いたことないんじゃないかな?

 

そもそもPICUって何だ?

そもそもPICUってなんだという話からになると思いますが、PICU=Pediatric ICUということで小児専門の集中治療室のことです。

小児専門の集中治療室なので、基本的には小児しか入院しません。

どんな患者さんが入院しているかというと、PICU病床を持っている病院の特徴にもよって患者層はだいぶ異なるので「一般的にこうですよ」という風には語れませんが、Dr.アシュアが勤務している病院が有しているPICUのことをちょっと話してみましょう。

普通PICUというと大学病院やこども病院にあるものなので、患者層は予定手術の術後の患者さんが多くて、緊急の患者さんの方が少ないイメージなのですが、うちの病院のPICUは市立病院クラスの小児科に併設している感じなので緊急の患者さんの割合が少し多いと思います。

うちのPICUでは、子どもの生まれつきの心臓の病気や、脳神経外科関連の術後の患者さんを受け入れているケースが多いです。術後の状態が安定するまで入院させるという事です。また、救急外来や小児科外来から調子が悪い患者さんが緊急入院したり(肺炎の呼吸不全や、けいれん重積など)、小児科病棟に入院していたお子さんが調子悪くなってしまったりして緊急入室して来たりというパターンが大半です。

PICUがない総合病院でも子どもの手術や緊急症例を見ていると思いますが、そういう病院では、集中治療室での治療が必要な場合は成人の集中治療室(いわゆるICU)を間借りして診療を行います。

 

PICUでは、全身状態が不安定なお子さんを入院させるので、基本的にはオープンフロア、つまりだだっ広い部屋に決まった数のベッドがおかれていて、常に看護師さんや医師の目が届く状態になっています

ちなみに「全身状態が不安定」というのは、生命のサインである「体温、脈拍、心拍数、呼吸数、酸素の状態や意識状態のどこかに問題がある」と読み替えてもいいかもしれません。PICUでは、これらのサインの推移がより緻密に把握できるようにお子さんの体にはモニターが張り付けられています。その数値が大きなモニターに表示されているので、常に看護師・医師が目視できるようになっています。

小児科病棟よりPICUが優れている一番のポイントは、普通の小児科病棟よりも患者さんに対する看護師さんの割合が多いので、密度の濃い看護体制が敷かれており「患者さんの状態がより細かく把握できる」ことに尽きます。逆にそれに徹するために、親御さんの付き添いは許可されていない所がほとんどだと思います。集中治療室ですしね。

 

「鎮静を追加するならPICUでの管理が必要」なのはなぜ?

今回のお話の中で麻酔科医の久守先生は、マコ先生が術後の麻酔を1時間延長しようと提案したことに対して、条件として「PICUでの管理」を挙げました。

これは、小児医療やPICUでの診療に携わるものなら非常に納得のおけるところです。

術中に使用している麻酔薬は、痛みをとる(鎮痛)、眠らせる(睡眠)、静かにさせる(鎮静)という目的で投与され、手術を安全に行うために必須の薬剤なのですが、たくさん使用すると呼吸機能や心機能が(一時的に)低下するリスクがあります。だから、手術中の麻酔薬の管理は麻酔科医が専門性を発揮して、投与量の調整や、副作用の監視と対応を常に行っているわけです。

術後に麻酔薬を持続的に使っている状態で、患者さんを一般的な小児科病棟に置いておくのは、非常にリスキーです。医者も常にいる訳じゃないし、看護師さんも常に見ている訳じゃないです。副作用が生じて何か問題が生じていても、早く気付くことが出来ないかもしれませんよね。

そういう意味で、麻酔科医の先生が出した条件は非常に理にかなっています。

 

今回のお話でマコ先生が提案したことは、患者さん(泰介君)の立場に寄り添って考えた提案で、まさにこれは「物言わぬ小児の代弁者」たる小児科医の本懐といった所なのですが、冒頭でもDr.アシュアが書いている通りちょっと現実感に欠けた提案でもあります。そこで、医療チームの一員である麻酔科医が、その提案を現実的に達成するとしたら…という観点で条件を提示したわけです。

ここの”立場が少し違う人間が、色々な考え方をぶつけ合って討論するディスカッション"が、まさにチーム医療という感じですよね。

小児科医の「患者さんに寄り添う意見」だけで進めてしまうとリスクがないがしろにされてしまう可能性がありますし、小児外科医・麻酔科医の「現実的な意見」だけで進めてしまうと患者さん本人を置いてきぼりにする無機質な医療になってしまうかもしれません。何事もバランスが重要です。

Dr.アシュア的には、今回の10話は、小児科医のマコ先生のやさしさが素晴らしい!っていう話よりは、この麻酔科医の先生の一言があったおかげでお話に現実感が付加されたような気がして、少しほっとしました。

 

最後に 同じ方向を見ていれば人間は協力体制がひける

今回は、第10話のあらすじから、PICUが何かということやその役割について書いてみました。麻酔科医の先生の一言についての解説から、チーム医療についてのDr.アシュアの考えも述べてみたりしました。

小児医療って、色んな人が関わります。小児科医、外科医、看護師、薬剤師、心理士、理学療法士などなど…。

医師も診療部門が違うと別の業種みたいなもんで、結構仲が悪かったりすることもあるんですよ~。でも医療者にとって「この子どもを良くしたい、家に帰してあげたい」と思う気持ちは皆共通なのだと思います、というか僕はそう信じています。

だから、個人的に仲が悪い人とだって、協力しますし、助けを求められたら応じるし、助けを求めます。そこには変なプライドとかはないし、必要ありません。専門家としてのプライドは必要ですけどね。

 

今回は以上となります。プラタナスの実を読んでいると、色んなことを思い出したり、考えたりしますね~。今後も漫画が盛り上がっていくと嬉しいです。1月末には単行本第1巻も発売されるとのこと。幅広い年代の人に手に取ってもらって、小児医療に興味を持ってもらえたらなぁと感じています。

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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