漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第32・33話を小児科医が解説! 手術時の気管挿管について

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第32・33話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1~3集も発売され好評のようです!

 

前回のお話では、急性骨髄性白血病の闘病中の天才ピアニスト朋美ちゃん=”ともりん”が起こしている合併症「好中球減少性腸炎」の治療方針について、大きな動きがありました。

今までは抗菌薬で保存的に治療を進めていましたが、最終的に手術療法に踏み切ることになりましたね。朋美ちゃんの命運は、主人公の小児科医真心先生から小児外科医・英樹先生へと託されました。

相変わらず兄弟の仲は悪いようですが、父でありセンター長である吾郎先生が間に入って、真心先生もなんとか手術の方針に納得という状況のようです。なんとか無事にオペが終わるといいのですが・・・。

それでは、見ていきましょう。

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第32・33話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

朋美ちゃんは病室で、英樹先生から手術の説明を受けています。そこには真心先生も同席しています。

「何か聞きたいことはない?」と聞く真心先生。「大丈夫。手術すると決めた以上、やるしかないもん」と返事をする朋美ちゃん。

病状説明が終了し部屋を後にする英樹先生と真心先生。2人は、部屋を出てから目も合わさず一言も言葉を交わさないのでした。

その後…病室でチャイルドスペシャリストの青葉さんに朋美ちゃんが話をしています。どうやら朋美ちゃんの先輩のことのようです。

「手術を機に、踏ん切り付けるよ。葛西先輩のことはもう忘れる」と朋美ちゃん。その決意に青葉さんもうなずくのでした。

 

そして手術当日。ベッドの上で目覚めた朋美ちゃんは、葛西先輩からのLINEに気が付きます。「今病院の前にいるよ。」

気が動転する朋美ちゃん。すぐに病室の窓のカーテンを開けると、そこには道路からこちらを見上げる葛西先輩がいました。

「俺の返事は「イエス」だよ。だから頑張れ朋美ちゃん。」

以前、嘘でも告白を受けるべきか悩んでいた葛西先輩は、朋美ちゃんに返事を持ってきたのでした。

鼓動が跳ね上がる朋美ちゃんですが、一瞬迷うようなそぶりを見せた後…なんと、突然かぶっていた帽子を取り、葛西先輩に自分の頭部を見せます。

朋美ちゃんの頭は、抗がん剤治療の副作用ではげあがりまばらに頭髪が残るだけ…。葛西先輩はあまりの衝撃に目を白黒させています。

「これが今の私です。今までの私を忘れてください。私も先輩を忘れます。」

朋美ちゃんは戸惑う先輩に向かい、笑顔で、少し泣きながらバイバイと手を振るのでした。

 

場面は手術の控室。手術が迫り、英樹先生はソファーで目をつむりながら手術のシュミレーションをしています。脳裏によみがえるのはかつて救えなかった同じ病気の患者さんの手術をしていた時の風景・・・。

準備ができたと声がかかり、目を開けた英樹先生。朋美ちゃんの運命をかけた手術が始まります。

英樹先生は、小児外科医の八柳先生とともに執刀します。皮膚を切開し、腹腔内に達するとそこには腸管が。丁寧に腸を確認し、病変の部位へと迫っていきます。・・・突然英樹先生の手が止まります。八柳先生もある事に気付き声を上げます。

「英樹さん・・・これは・・・・」

 

・・・手術室前で不安そうに待つ両親。小児科医・真心先生が「無事を信じて待ちましょう」と声をかけます。すると手術室の扉が開き、神妙な面持ちで出てくる兄・英樹先生の姿が・・・!

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第32・33話より

・・・う~ん、ひっぱるなぁ(笑)・・・先が気になりますね!

とは言え、今回の32話は、個人的には「プラタナスの実」でも1、2を争う名場面でしたね。

朋美ちゃんが抗がん剤治療の副作用ではげてしまった頭部を見せつつ先輩に別れを告げる場面。これは読んでいてもかなりの衝撃の場面でした。電話ではなくLINEのトークでやりとりしちゃう所が時代を反映してるな~なんて。意見がおじさんですね(笑)

幼いと言っても女の子は強いですよね。葛西先輩のことは忘れると踏ん切りつけると言っていて、先輩が(嘘かもしれないけど)告白を受けてくれたのに、ちゃんと断るという・・・。

これ性別が逆だったらどうだっただろう。例えばDr.アシュアが患者さん側だったことを想像してみたんですが、、、踏ん切り付けると言いながら、土壇場で踏ん切り付けられなさそうです(笑) 恋愛に関しては女性の方が男性の方よりも一旦決断したら揺るがないような気がするのは、私だけでしょうか。

 

そしてついに始まった手術・・・。ちょっと気になったのは、術中に朋美ちゃんが酸素マスクを当てられている姿が出ていました。

普通全身麻酔でそれなりの手術時間にもなるし、全身状態もすごくいいわけではないので、気管内挿管して手術するような気がしますよね。。

プラタナスの実は、その辺りしっかり監修されているようなイメージがあったので、ここは意外でした。もしかして、かなり短時間の手術を想定していて、自然気道で手術に向かったのか??? ちょっと疑問が残りました。

それはとりあえず置いておいて・・・術中に英樹先生の手が止まったシーン。。気になるぅ。。。

そして手術室からでてくる英樹先生の何とも言えない険しい表情。。気になるぅ。。。

答えは次号に!という感じなのでしょう。

 

今回は、全身麻酔を伴う手術の際になぜ気管内挿管が必要になるのか、そもそも気管内挿管とは何なのかについて話し、その後手術が行われているときに小児科医がしていることについて書いてみようと思います。

 

全身麻酔を使う手術の時は、なぜ気管内挿管をする必要があるのか 気管内挿管とは何か

手術は「メスなどの外科的器具を用いて、患部を切開などして治療的処置を施すもの」ですが、要は治療のために人体を切るわけです。当たり前ですが患者さんは、痛いですし、怖いですし、じっとしてなどいられません。

安全に手術を行うためには、患者さんの鎮痛(痛みをとる)・鎮静(静かにさせる・眠らせる)を行う必要があります。

鎮痛・鎮静に関するお薬は多種多様で、医師であれば様々なシチュエーションで麻酔薬を使うことがあります。麻酔科医しか麻酔薬を使わないという事はなく、もちろん小児科医だって麻酔薬を使います。

脳波やMRIなど、子どもの場合眠ってくれていないとできない検査の時に、麻酔薬や睡眠薬を少量使うことがありますが、こういう検査は失敗しても検査ができないだけで再トライすればいいだけなので、むしろ麻酔薬や睡眠薬は過量投与にならないように気を付けて使用します。

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検査のために、睡眠薬を使うことなんてあるの!?

『お母さん、お子さんの病気を診断するためには、〇〇という検査が必要です』 『検査のために、睡眠薬を使う必要がありますから、これから同意書を説明しますね・・・』   今サイトをご覧になっている ...

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しかし、手術に関しては体が少し動くだけで手術ミスにつながる可能性があるわけで絶対に動いてほしくないわけです。だから、麻酔薬を複数種類組み合わせて、十分量投与することになります。

手術が安全に行える鎮痛・鎮静レベルを目指して麻酔するとなると、当然ながら意識がなくなりますまた麻酔薬の副作用と呼んでも良いと思いますが、呼吸抑制がおこり、循環抑制が起こります。

意識が無くなると舌の緊張がなくなったりすることで、空気の通り道(気道と言います)を開いておくことが出来なくなります。呼吸する機能が失われるため、人工呼吸をしないと血液に酸素を取り込むことが出来なくなります。循環抑制というのは、心臓の機能が一時的に弱まることです。全身に血液を巡る機能が落ちるため、血圧・脈拍が落ちます。

人が生きる上で大事なABC A=Airway(気道)、B=Breath(呼吸)、C=Circuration(循環)が、麻酔薬を十分使うことにより障害されることになります。ですから、医療的処置を施すことによりABCを保ち、安全に手術を行える状況を作り出す必要があります。

つまり、気管内挿管を行うことで気道を確保し、人工呼吸器による人工呼吸で呼吸を担保し、輸液や循環作動薬を投与して心機能をサポートする必要があります。

ここでようやく気管内挿管という言葉が出てきました。気管内挿管とは、空気の通り道=気道を安全に確保するための医療的処置のことなのです。

 

気管内挿管とはどういった医療処置なのか

ここに顔の断面図があります。ここでは一般的な”経口”気管内挿管についてごくごく簡単に、分かりやすく説明しようと思います。

細かいことを言えば気管内挿管一つとっても、色々あるので詳細は省き説明しますので、ご承知下さい。

 

図で書いたように口から入り、舌をよけて、食道に入らないように気をつけつつ、気管へチューブを入れることを経口気管内挿管と言います。

見た通り気道は曲がっているので、このままだと口からのぞいたところで気管は見えません。ですから、患者さんをあおむけに寝かせた上で枕を調整して正しい姿勢(においを嗅ぐときのような首を前に出す姿勢)にすることで、曲がっている気道をまっすぐにします。

その上で、気管チューブスタイレット喉頭鏡という器具を用いて気管内に導きます。

 

気管チューブだけだと”こし”が足らず気管内挿管がやりにくいことがあるので、スタイレットという金属の棒を気管チューブに入れた状態で準備します。

喉頭鏡は、挿管する上で視野の邪魔になる舌を上手くよけて、気道が見える(正確には気道の入り口にある声帯が見える状態)ようにする器具です。また、先端にライトがついていて口の中を明るく照らして見やすくなります。

挿管のやり方としては、喉頭鏡を口に入れて、舌をよけて気管が見えるようにして(正確には機関の入り口である声帯を見えるようにします)、スタイレットを入れた気管チューブを気管に挿入します。事前に決めた深さまでチューブを挿入したら、スタイレットを抜いて、固定のバルーンを膨らませて終了です。

これで、空気の通り道=気道が安全に確保された状態になります。当然ですが、この処置は意識がある状態ではまず不可能です。喉に管を入れる段階で嘔吐反射が起きてしまうためです。

麻酔薬で鎮静・鎮痛を行い、呼吸が弱った状態で行う処置ですから、迅速にかつ正確に行わないと、呼吸状態がどんどん悪くなるリスクがあり技術や経験が必要な処置です。

 

手術が行われているときに小児科医がしていること

Dr.アシュアが働いている病院には小児外科医の先生が複数おり、小児集中治療室もあります。

小児外科医の先生が術後の管理もそのまま行うケースも結構あって、その場合は小児科医はノータッチです。

術後に小児集中治療室に入り術後管理を小児科医が行う場合は、小児科医は手術が終わるのを小児集中治療室で待っているのみです。手術室に患者さんを連れて行ったり、術後に迎えに行ったりすることはありますが、手術は外科医のものなので小児科医は手出しをしません。

夜間の緊急手術で小児外科医の先生が手が足りないときに、小児科医が執刀医の先生のお手伝いに入ることがまれにありますが、小児科医がやれることはそれほど多くはありません。術野の確保のために術創を開く手伝いだったり、器具の受け渡しだったりを行うくらいです。手術が終了してお腹を閉じるときに糸結びをしたり、結んだ糸をはさみで切ったりするのはあるかもですが、患部の手術はもちろん傷を縫ったりするのも小児科医が手出しをすることはありません。手術は外科医の聖域です。

話を戻しますが、当院の小児集中治療室には、手術室の様子が分かるモニターが設置されており、常に見えるようになっています。術後管理を行う小児科医たちは病棟の仕事を行いつつ時々モニターを見たりしています。長い時間のオペでは、小児集中治療医が手術室に様子を見に行ったりすることもあります。

小児外科医の先生たちがお腹を閉じ始めると、そろそろ手術が終わるサインです。集中治療室に戻ってくるまえにできる限り情報を集めます。

挿管のままで帰ってくるのか、抜管された状態で帰ってくるのか、点滴は何か繋がって帰ってくるのか、鎮静・鎮痛の薬は何をどれくらい使ったのか、輸血はしているのか今後も続けるのか、術後の抗菌薬は何時まで続けるのか、いつから栄養を入れ始めていいのか・・・などなど収集すべき情報はたくさん!

術中に収集できる情報もあれば、術後に麻酔科医の先生や術者の先生からの申し送りで確認すべき情報もあります。

術後管理は、安全にかつ主治医の小児外科医の先生の方針とズレないように行う必要があり、小児科医の果たす役割も大きいと思います。

 

最後に

急性骨髄性白血病の朋美ちゃんの好中球減少性腸炎。英樹先生のオペは終了したわけですが、、、

オペ中の八柳先生の「英樹さん・・・これは・・・」というセリフもあったし、なんだか術後の英樹先生の顔は険しいしで・・・

心配!!!朋美ちゃんの今後が心配!!!

手術の結果や術後の経過がどうなるのか、今後のお話に注目ですね。

 

追記

プラタナスの実 1巻・2巻・3巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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