漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第26・27話を小児科医が解説! 血液がん×好中球減る=危険度MAX!

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第26・27話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1~2集も発売され好評のようです!

 

前回のお話では、急性骨髄性白血病の天才ピアニスト”ともりん”の恋愛の悩みを、チャイルドスペシャリストの青葉さんが聞き、アドバイスする…といった内容でした。今回の2話はお話も動くし、ともりんの体調も変化するしで、なかなか内容が濃かったです。

それでは、見ていきましょう。

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第26・27話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

チャイルドスペシャリストの青葉さんに励まされ、好きだった先輩「葛西先輩」にメールを返信した骨髄性白血病のともりん。なかなかメールの返事が無いようでしたが、ある日突然スマホが鳴りました。

それは先輩からの連絡かと思いきや、実は事務所の人からの連絡でした。しかも、ともりんが白血病だったことが週刊誌にばれてしまったとのこと。

もともと自分の病気を公表しようと思っていたともりんでしたが「朋美ちゃんの友人からの情報提供があったようだ」という事務所の人からの話に、”もしかして葛西先輩が…”という疑念が生まれてしまいます。告白の返事を聞きたいのに先輩から連絡がこない…、もしかすると自分の病名を葛西先輩が漏らしたのかもしれない…と、ともりんの心は焦りと不安で一杯になってしまいます。居ても立っても居られなくなったともりんは、なんと病院を抜け出して葛西先輩に会いに行ってしまうのでした。

無断で病院を抜け出しタクシーで自分の高校へ向かったともりん、帰宅途中の葛西先輩をなんとかつかまえることができました。「音楽室での話の返事を聞かせてください」と告白の返事を迫るともりん、しかし葛西先輩は「何の話・・・?」と。なんと葛西先輩は告白されたことすらほとんど記憶に残っていなかった様子。。。

ショックを受けるともりん、一人病院に帰ろうとするのですが、、、急にお腹をかばうようにして倒れてしまうのでした。。。

 

場面は北広島市総合医療センター小児科。一本の電話が入り、なんと「朋美ちゃん(ともりん)が救急搬送されてくる」とのこと。主人公の鈴懸真心先生、センター長の父・吾郎先生らは、一瞬朋美ちゃんが見つかったことに安堵しますが、その後の情報を聞いて緊張が走ります。「38.5度・・・・!?」

搬送されてきたともりんを診察する真心先生、診察するとどうやら明らかに腹部に圧痛がある様子。すぐに真心先生は声を出します。

「すぐに血液培養2セットと採血。生理食塩水の点滴をして、腹部エコーと造影CTをします!抗菌薬も準備して!」

腹部造影CTをナベ君とみる真心先生…「好中球減少性腸炎だ・・・今の状態で手術は避けたい、極めて重要な時だよ」

 

場面は変わり、墓地。どうやら主人公の兄・鈴懸英樹先生が、自身の母親の墓参りをしに来たところのようです。英樹先生は、母の墓前で手を合わせながら、かつて母とした会話を思い出していました。

「医師になる前に、自分がどんな医師になりたいか、みつけなさい」

その言葉を思い出し、英樹先生は自分に問いかけます。”おれはどんな医師になった・・・?”

英樹先生は、弟・真心先生の患者に寄り添う医療は家族ごっこだと断じ、自分は自分の道でもっともっと多くの患者を救うと、墓前で誓うのでした。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第26・27話より

ともりんの好きな葛西先輩は、絵にかいたようなフェミニンな雰囲気のロンゲの可愛い男子でしたね。

でも女子の告白をちょっとした冗談だととらえて忘れてしまうあたり、まあモテるんでしょうね。将来クソ野郎になるフラグがビンビン立っているきがしますね(笑)

そんなクソ野郎のことは置いておいて、ともりんがかなりヤバい状況ですね…。熱を出してしまい、さらにお腹の病気にもなってしまっている状態。。。

 

さらに最後の所で”小児外科医・英樹先生が母の墓前で誓うくだり”がありましたね。

英樹先生、今後ともりんの治療方針に対して、主人公・真心先生とガッツリもめそう

というかもめるでしょう、これは(笑)。

今回は、ともりんの今の状況がどれくらい危険なのかを詳しく解説すること好中球減少性腸炎について解説することをやってみたいと思います。

 

ともりんの今の状況はかなりヤバい・・・現状を整理してみる

まず、ともりんの病気は「急性骨髄性白血病」という病気でした。

そして第24話のお話を思い出してみましょう。

CHECK
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ともりんは抗がん剤の副作用で、脱毛の副作用が出ていましたが、、それだけではありませんでしたよね?

そう「好中球減少症」という副作用も出ていました。

そして今回の話では、救急車でともりんが搬送されてきた所で「38.5度」と発熱していることに、真心先生も、センター長の吾郎先生も「ピキーン!!」って反応してましたよね。あのー・・・ガンダムで言う所のニュータイプの音みたいなのが流れる感じ(年齢がばれますねwww)。

そして、どうやら腹痛もあり、真心先生が触診したところ何かできもの?みたいなものが触れたみたい。すぐさま採血・エコー・CT!でなにやら怪しげな病名が・・・「好中球減少性腸炎」ですって!?

 

キーワードがいくつか出てきました。

「急性骨髄性白血病」「好中球減少症」「発熱」そして「好中球減少性腸炎」ですね。

 

まずは「急性骨髄性白血病」。前の投稿でも説明しましたが、血液の癌の一種ですね。

骨の中の骨髄というところで、異常ながん細胞が増えて一杯になってしまうことで、骨髄が正常な働きが出来なくなる病気でした。

骨髄の正常な働きは「血液の細胞を作る」ことなので、正常な白血球・赤血球・血小板が作れなくなるんですね。

その結果、白血球の減少→感染症に弱くなる、赤血球の減少→貧血、血小板の減少→歯肉出血などいろんな場所で出血する

といった症状が出てきます。

 

次に「好中球減少症」。字のどおり”好中球が減っていますよ”という病名なのですが、好中球は、実は白血球の一種です。

白血球は「はたらく細胞」とかでもでてくる外界から入ってくる病原体をやっつける血液の細胞ですが、白血球にも色々な種類の細胞がいて様々な役割を持っています。

白血球に分類される細胞たちとその役割

好中球:細菌などを取り込み、細胞内にある酵素で分解する細胞。感染症や炎症で増加する

好酸球:アレルギー疾患や、寄生虫による疾患の時に増加する細胞

好塩基球:アレルギー反応に関与する細胞で、細胞内の物質を放出し即時型のアレルギー反応を起こす

リンパ球:おもにT細胞、B細胞に分類される。ウイルス感染に伴い増加する

単球:好中球と同様に細菌を取り込み分解する働き、分解したものをリンパ球に提示(抗原提示)し、抗体産生を助ける働きを持つ

好中球は上の表のとおり、細菌感染に対する防御力の要ともいうべき細胞で、血液検査で好中球の数が500 個/µLを下回った状態を「好中球減少症」といいます。この状態は非常に細菌感染に弱い危険な状態です。

がんの時に投与される抗がん剤には、骨髄に副作用がでるものが多く、骨髄抑制といって血球減少を引き起こします。その結果、好中球が減って「好中球減少症」を来たすわけです。

 

つぎに「発熱」です。

子どもはよく熱を出しますが、ほとんどが軽症疾患で、重症になることは少ないです。

しかし、今回のような好中球減少症の時に起こった発熱というのは、普通の人の発熱とは全く危険度のレベルが違います。英語でも日本語でも好中球減少症の時の発熱というのは別格で「発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia)」と別の病名で呼ぶくらいです。

今回の”ともりん”のように、血液のがんで、抗がん剤の副作用で好中球減少症で発熱だと、もうこれは絶対無視できない、超・超・超緊急の状態です。

発熱性好中球減少症のときは、普段はまず入り込まない血液の中にまで細菌が入ってしまう「菌血症」が起こっていることも多いですし、それによる「敗血症性ショック」の状態になってしまうと、もはや生命の危機と言っても過言ではありません。

普通の感染症と違って、抗菌薬の選択を誤って効かない薬を投与していた、みたいなことがあってはならない(治療の遅れは死につながる)ため、経験的治療(empiric therapy:エンピリックセラピー)という抗菌薬の選び方をします。

経験的治療とは、可能性がある病原体は全てカバーするように普段なら使わないような広域抗菌薬を惜しげもなく使う、抗真菌薬も使う、といった通常の小児科外来ではまずやらないような薬のチョイスのことを言います。

発熱性好中球減少症というのは、”絶対抗菌薬を外したくない”、それくらい本気で対処しないとまずい状態、ということなんですね。

 

最後の「好中球減少性腸炎」については次の項で説明していきます。

 

好中球減少性腸炎ってどんな病気

好中球減少性腸炎が起こりうる条件

・悪性腫瘍患者

・好中球減少状態のとき

・抗がん剤による粘膜障害があるとき

これらの条件が満たされたときに、回盲部という腸の部分に感染が起こって生じる病気が、好中球減少性腸炎という病気です。

回盲部とは、回腸から大腸に移る部位のことで腸の中の場所を示す“番地”みたいなものです。盲腸の時に炎症を起こす虫垂(ちゅうすい)もこの場所にあります。この回盲部の腸は、流れている血液の量が他の部位に比べて少なく、伸び縮みしにくい性質があり、それが好中球減少性腸炎の原因の一因になります

 

この回盲部の腸に、細菌感染、血行障害、出血性壊死が起こった結果、回盲部の腸の壁が腫れて厚くなり腹痛・発熱という形で発症します。

好中球減少性腸炎は、免疫能が低下した状態で起こる感染であるため、様々なタイプの細菌、真菌など複数の菌の感染になることが多い。Clin Infect Dis. 2013;56(5):711. Epub 2012 Nov 29. 

という報告もありますし、菌が血液に侵入する菌血症に至ることも多く非常に危険な病気です。

話中で、「真心先生がともりんの腹部を触診して何かに気付いた」ような描写がありましたが、おそらく圧痛を伴う腫瘤を触れ、鑑別疾患の一つに「好中球減少性腸炎」が浮かんだのだと思われます。そして確定診断のために、超音波検査、腹部造影CT検査を考えたのでしょう。

前の項でも書いたように、好中球が減少している状態は細菌感染に弱く大変危険な状態なので、早期発見と、抗菌薬の全身投与、G-CSF(好中球を増加させる薬剤)などといった治療を遅滞なく始めることが必要になります。

 

しかし、内科的治療を行っても経過が思わしくない場合や、腸が破れている(=裂孔)や腸管内・外に出血がありコントロールできない時には、外科的に治療に踏み切らざるを得ない場合もあります。

ですが、、、好中球減少症の患者さんに対する手術は、感染症を引き起こすリスク、傷が治りにくい、出血がコントロールしにくい、と相当リスキーなので基本的にはとてもやりたくない治療です。。

外科的手術の目的は、

・破れている腸管があるなら縫合する

・壊死している組織があるなら除去する

・出血している部位があるなら止血する

という事になるのだと思いますが、かなり、、、かなり、、、難しい手術だろうと思います。

そもそも術前の患者さんの状態が悪いから好中球減少性腸炎になっているわけなので、相当不利な前提条件で戦わなければいけないという事ですから…。

好中球減少性腸炎の発生率はまだ不明とされていますが、

2007年の報告では16歳以上の重篤な好中球減少症のエピソード317件の内、3.5%が好中球減少性腸炎と診断された。Ann Oncol. 2007;18(1):183. Epub 2006 Oct 5. 

という報告がありました。さらに・・・

消化管の粘膜を障害するような抗がん剤の普及に伴い、好中球減少性腸炎の頻度は増加している。Clin Infect Dis. 2013;56(5):711. Epub 2012 Nov 29. 

との報告もありました。消化管の粘膜を障害するような抗がん剤は、いわゆる口内炎なども起こします。口の中も消化管ですからね。

このような粘膜障害を起こしうる抗がん剤の例を挙げておきます。

粘膜障害が起こる抗がん剤

タキサン系薬剤(ドセタキシル、パクリタキセル)、シタラビン、イダルビシン、ビノレルビン、フルオロウラシル、カペシタビン、シクロホスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチンなど

 

そしてこの病気はちゃんと治るんですか?という話なのですが、、、

2005年の報告では好中球減少性腸炎の死亡率は50%以上であった。Eur J Haematol. 2005 Jul;75(1):1-13. 

という恐ろしい報告がありました。

がん患者の合併症の中では、相当まずい合併症であるということは間違いが無いようです。。

 

最後に 

今回は、メインストーリーとして大きな動きが起こりましたね。

急性骨髄性白血病のともりんは、無断で病院を外出して体調を崩し、なんと好中球減少性腸炎にかかってしまいました。

好中球が減少している状態では、抗菌薬の効果も十分発揮されないでしょうし、手術するにしてもさらに感染症を引き起こしたり傷が上手くくっつかなかったりするリスクが高く、ともりんは控えめに言って、生きるか死ぬかの局面に立たされているでしょう。

真心先生が絞り出すように言った「手術だけは避けたい・・・。今の状態ではリスクが高すぎる。極めて重要な時だよ」という言葉、相当重いです。

本来小児科医・小児外科医は協力してチームとして患者さんに関わるべきですが、、、主人公の真心先生と兄・英樹先生は、プロとして立派に協力し、役目を果すことが出来るのでしょうか。

次回も注目していきたいです。

 

追記

プラタナスの実 1巻・2巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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