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こどものバセドウ病、太る病気!?やせる病気!?

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こんにちはアシュアです。新年度が始まりましたね。うちの小児科にもフレッシュな新人さんが4-5人やってきて、四苦八苦しながら電子カルテと格闘しています。新しい環境に早く慣れて、たくさん新しいことを身に着けて欲しいですね~

今回はバセドウ病について書こうと思います。

バセドウ病と言えば、歌手の絢香さん、声優の宮村優子さん、元ピンクレディーの増田恵子さんなどの芸能人が病気にかかったことを公表されたりしていました。またサッカー選手の本田圭佑選手もバセドウ病の手術を受けたのではないか、と一時期ウワサになったりしていました。病気としては身近な部類に入るのではと思います。

こどものバセドウ病は比較的まれな部類の病気になりますが、私の外来にはバセドウ病のこどもの患者さんが複数名来院しています。

この前バセドウ病の治療を開始した10代の女の子のお母さんから、「うちの子、治療が進むにしたがってどんどん太るんですけど、大丈夫ですか??」と聞かれることがありました。一般的にバセドウ病は『やせる病気』と言われているのになぜでしょう?

今回はこの疑問点、こどものバセドウ病は太る病気なのか、もしくはやせる病気なのか医学論文も引用しつつひも解いてみましょう。

 

甲状腺ホルモンとは

まずバセドウ病を理解する前に、甲状腺ホルモンについて語らねばなりません。

甲状腺は、のどぼとけの下にに気管に前から巻き付くように存在している薄い臓器です。心臓・腎臓・肝臓などと比べてマイナーで、腫れたりしてなければ一般の人だと触れられないので、そんな臓器があることをあまり知らないで生活されている方もいるのではないでしょうか。

甲状腺ホルモンは、人間を車に例えるとエンジンの回転数を決めているアクセルみたいなものです。高速道路では周りの車に合わせて早く走らないとまずいですし、街中では高速運転はだめなので遅く走りますよね?このような感じで、我々人間も周りの環境に合わせて自分のエンジンの回転数を調節して生活しており、甲状腺ホルモンはその調節を担っています。

ですから

甲状腺ホルモンが過剰 ⇒ 元気が出すぎる、怒りっぽくなる、脈が増える、ドキドキする

             汗をたくさんかく、手が震える、やせる、水分が沢山ほしくなる

甲状腺ホルモンが不足 ⇒ 元気がなくなる、うつっぽくなる、脈が少なくなる、

             乾燥肌になる、体重が増える、体がむくむ、体温が下がる

といった感じで、甲状腺ホルモンが増えると体がカッカカッカ燃えたぎる感じになりますし、甲状腺ホルモンが減ると体は冬眠状態のようになります。

この機能がおかしくなったら、なんとなく困りそうですよね。運動会の徒競走の時に、まったく闘争心がわかなかったり、逆に休日ゆったり家で過ごせる時間があっても何かしないでは居られない、無性に体を動かしたくなる…みたいな。

そして甲状腺ホルモンは、脳(下垂体)⇒甲状腺⇒甲状腺ホルモンという脳が中心となるシステムによって調節されているのですが、少し分かりにくいです。私の名付けた『社長-工場-製品の法則』で分かりやすく図示して説明していきましょう。

脳は甲状腺ホルモン工場の社長です。常に市場(体)に一定の製品を出荷することを会社のスローガンとして日夜甲状腺工場に命令を出しています。

甲状腺は甲状腺ホルモン工場です。工場には社員がいて社長の命令に応じて甲状腺ホルモンを作っています。この社員は社畜なので、作れ!と言われれば作る。やめろ!と言われればやめます。

そして甲状腺ホルモン、これは製品です。これが市場(体)に分配されて全身に作用します。

 

社長はこの製品(甲状腺ホルモン)の量をモニタリングしていて、

製品の量が少なければ、「もっとホルモンを作れ!」と工場に命令を出します

逆に製品の量が多ければ「もう作らんでよし!」と甲状腺への命令を取り下げます

甲状腺はこのような調節のシステムの中で働いています。

甲状腺の病気はこのシステムがおかしくなることで生じるので、甲状腺の病気を理解するためには、まずこのシステムについて理解することが大事です。

 

そして甲状腺ホルモンと体重の関係ですが、甲状腺ホルモンは自分のエンジンの回転数を調節するホルモンでしたよね。

甲状腺ホルモンが増えすぎれば、普通に生活していても常に全力疾走しているようなものでカロリーをどんどん消費していく体になっており、一般的には体重は減っていきます。甲状腺ホルモンが不足していると、普通に生活しているように見えても常に寝ているような状態でカロリーは消費しにくい体になっています。一般的には体重が増えていくわけですね。

 

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺の病気です。

カテゴリーとしては、甲状腺疾患で、甲状腺中毒症の中に含まれ、甲状腺機能亢進症に分類されます。すでに医学用語だらけで理解不能なので、補足します。

 

甲状腺中毒症⇒血液内の甲状腺ホルモンが増えている状態で、過剰な甲状腺ホルモンによる検査値の異常や症状がある状態

甲状腺機能亢進症⇒甲状腺ホルモンの合成・分泌が増えている状態

 

例えば、甲状腺が壊れる病気があります。甲状腺が壊れると、壊れた甲状腺細胞の中から甲状腺ホルモンが漏れ出てくるので、甲状腺ホルモンが血液内で増えて検査値異常や症状が出ることになります。この甲状腺が壊れる病気(例えば亜急性甲状腺炎)は、甲状腺中毒症だけど、甲状腺からホルモンの合成・分泌が増えているわけではないので、甲状腺機能亢進症ではありません

バセドウ病は上に書いたように、甲状腺機能亢進症です。甲状腺ホルモンの合成・分泌が増えているわけですね。それによって過剰な甲状腺ホルモンによる検査値の異常や症状がでて、甲状腺中毒症になります。

甲状腺ホルモンが増えるその原因は、脳(社長)ではありません。社長ではない他人、言い換えればスティーブ・ジョブズ的なCEOが突然やってきて甲状腺ホルモン工場に勝手に命令を出しまくる病気です。

ここでいうCEOは医学的に正しく言うと、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体(TSH receptor antibody:TRAb)のことです。

このCEOは社員のことを考えている社長(脳)のように有能ではありません。製品の量なんてモニタリングしていません。「製品を作りまくればもうかるのだ!」と言わんばかりに命令を出しまくります。もうめっちゃブラックです。

甲状腺ホルモン工場の社員は、真面目そのもの。命令の通り甲状腺ホルモンを作りまくります。その結果甲状腺ホルモンが市場にあふれてしまい、病気が発症します。工場は増産体制になり工場はどんどん大きくなります。これによって甲状腺腫大が起こってくるわけです。

当の社長は何をしているかというと、一応市場のモニタリングはしています。社長のできることは自分の命令を取り下げることなので、社長の命令は極度に下がります。CEOの言うことには従うしかないので社長は静かにしているしかないんですね。

そして前ページでも書いているように、元気が出すぎる、怒りっぽくなる、脈が増える、ドキドキする、汗をたくさんかく、手が震える、やせる、水分が沢山ほしくなるといった症状が出現してくることになります。

バセドウ病はこどもではまれだと書きましたが、こどもの甲状腺中毒症の原因としては一番多い病気になります。

2008年のアメリカでの統計では、8000人くらいのこどものバセドウ病の患者がおり、

だいたい10000人のこどもに1人がバセドウ病にかかると言われています。

http://bpca.nichd.nih.gov/outreach/index.cfm

1万人に1人というとかなり少ない印象はありますが、私の勤務している病院は100万人レベルの人口をカバーする市立病院クラスなので、1年いれば数人はこどものバセドウ病の患者さんが発生している印象ですね。

バセドウ病の治療経過と体重の関係

さて、ようやく本題です。こどものバセドウ病の治療の前後で、体重はどのように変化するのでしょうか。こどもの場合は、科学的に根拠のある情報はそれほど多くはありません。Pubmedという医学論文専用の検索サイトで、当たってみてもかなり少数の論文しかありませんでした。

今現在わかっている情報をまとめてみたいと思います。

バセドウ病の場合は一般的には体重減少が起こると前述しましたが、実は現場ではそこまで単純ではありません。バセドウ病の病状が進むと食欲亢進が著しくなるので、バセドウ病の経過とともに3パターンの体重の推移があります。

体重が減少する  … バセドウ病の病状の重さ  > 食欲亢進で増える摂取カロリー

体重が変わらない … バセドウ病の病状の重さ  =   食欲亢進で増える摂取カロリー

体重が増加する  … バセドウ病の病状の重さ  < 食欲亢進で増える摂取カロリー

 

Treatment of Pediatric Graves’ Disease Is Associated with Excessive Weight Gain

J Clin Endocrinol Metab 96: 3257–3263, 2011

この論文は、エール小児甲状腺センターで2006年から2011年にバセドウ病と診断された患者さん43人を対象とした、バセドウ病の治療前後で体重がどのように変化するかを調べた論文です。

自分が調べた範囲では、冒頭にも書いたようにこどものバセドウ病で体重に着目した研究はとても少ないですが、この論文はこどものホルモン関連疾患の領域で権威ある医学雑誌JCEMに掲載されている論文であり、比較的エビデンスレベルは高いと思われます。

2人の患者さんが放射線ヨードで治療され、1人が診断から2か月で甲状腺全摘出術を受けていますが、40人は治療開始時は抗甲状腺薬で治療されていました。

40人の抗甲状腺薬で治療開始をした人の中で、7人が最終的に手術対応になっています(3人は内服治療の副作用のため、4人は家族の希望のため)。

これをみると、43人のうち多くが抗甲状腺薬で治療されていて、抗甲状腺薬の中でもメルカゾールで治療された患者さんが多かったです。

何故わざわざ研究に参加した人の内訳を語るのか不思議に思われるかもしれませんが、これは実はとても大切な作業です。論文を読む場合には、対象となっている患者さんの集団の特性や治療内容の状況が、現在の自分が住んでいる国の状況と似ているかどうか、少し検討してから読むことが大事です

現状の日本の状況では、やむを得ない場合には手術を行うケースもありますが、基本的には初期治療はMMI一択ですので、論文の結果はまずまず日本でも参考になりそうです。統計の用語ではこれを「外的妥当性」といって、結果が色々な国や状況でも応用できそうな汎用性の高い研究は外的妥当性が高く、価値が高いものになります

 

この論文では、43人の患者さんの体重の経過を病前1年前から治療後約3年まで観察したデータを解析していましたが、10人が治療後に肥満になったという結果がでました

バセドウ病にかかったこども約40人の内、約25%が治療後3年の時点で体重が増加していた、と言い換えても言い換えてもいいかもしれません。ただし、肥満になった25%の患者さんが3年後のその後も肥満の状態であったかどうかは分かりません。

また、21人ちょうど半分は、体重があまり変化がなかったということも示されていました。甲状腺機能亢進状態でのカロリー摂取量は、普段の50-100%の増加があると言われているので、バセドウ病による消費エネルギーの増加をカロリー摂取で補えた場合はこのグループのように体重減少が起こらなかったのだろうと推察されます。

 

大事な事は、体重が増えたこどもたちは、特に治療開始から3か月から6か月が特に体重増加が著しく、かつ3か月の時点では多くのこどもたちは、採血検査が正常化していなかったという事実です。Basedow病が良くなる前にすでに体重増加は始まっているということになりますね。

男女で比較すると、女の子の方がより多く体重が増えており、年齢で比較すると11歳未満の患者がより多く体重が増えていました。この2点の解釈は特に注意が必要で、結果をうのみにしてはいけません。

そもそも患者さんの年齢が11歳前後に集中しているのですが、女の子で年齢が11歳未満だとよく身長が伸びる成長期に入っている年齢ですが、11歳以上だと成長期が終わってくるこどもも入ってきます。女の子は成長期で体に脂肪がついて丸みを帯びるのが普通ですので、Basedow病で太ったのではなくて、ただ単に思春期の影響をみているだけかもしれません。男女のこと、年齢のことに関しては、この論文でも思春期の影響を除外できていないとの記載があったので、あまり参考になるデータではないでしょう。

 

ともかくも、

成人のバセドウ病では体重増加が心血管系イベント(例えば心筋梗塞、脳梗塞など)に関与することが証明されています。

Boelaert K, Franklyn JA 2005 Thyroid hormone in health and disease. J Endocrinol 187:1–15

もしこどものバセドウ病の患者さんが太りやすく、その体重増加の程度が大人まで維持されたとすれば、その影響は大きいのではないか、と著者らは締めくくっています。

 

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バセドウ病になったあと、太らないようにするには

論文から生かせる知識としては、

・こどものバセドウ病の患者さんの治療開始後は、1/4くらいの患者さんが特に3-6か月間体重増加してしまうというデータがある

・一旦体重増加してしまうと、その後なかなか体重が減らせられないかもしれない。

といった所でしょうか。

これを知った上で、太らないようにするにはどうしたらよいでしょう。まずは、こういった事実があるということを知ることが大事ですよね。知っていれば事前に具体的な対処法を練ることが出来ます。

治療開始後の特に半年は太る可能性があるので、病気の前に食べまくっていた人は、意識して食事を減らしたりすることが可能ですよね。大人と違ってこどもは自分の体格(特に太っているか、やせているか)についてはあまり意識していないことも多いので、お母さん・お父さんがこどもの体格に敏感になっておくこともとっても大事です

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