こんな症状、あなたならどうする?

喘息で吸入ステロイドを使用していると肺炎が増えるか?その疑問に迫る

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こんにちは、Dr.アシュアです。今回は、気管支喘息の治療に関する副作用の話題です。

内服薬のステロイドは、長期に内服を続けると易感染性といって、感染症に弱くなる副作用が存在します。

気管支喘息における吸入ステロイドは、今や言わずと知れた標準治療の一つで広く使用されている薬です。さらに1週間や2週間などの短い期間の使用ではなく、ある程度長期に使用されることが多い薬です。

その吸入ステロイド、使用していると感染症が増えたりしないかな??という問いはとても自然な発想です。

今回紹介するPediatricsのシステマティックレビューは、この疑問に答えようとした論文です。

それでは、今回の主役に登場してもらいましょう。

Pediatrics. 2017 Mar;139(3).  PMID: 28235797

Inhaled Corticosteroids and Respiratory Infections in Children With Asthma: A Meta-analysis.

Cazeiro C, et al.

さあ、見ていきましょう。

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背景-Back ground

吸入コルチコステロイド(以下、吸入ステロイドとします)は、慢性閉塞性肺疾患の成人患者において肺炎のリスク上昇と関連している。

Cochrane Database Syst Rev.2014;3(3):CD010115.

大人の領域では、慢性肺疾患の患者さんでは吸入ステロイドの使用が肺炎のリスクを上げると言うことが言われています。

 

気管支喘息の患者さんについてはどうかというと、子どもから成人まで含めた研究はあるようです。

喘息患者でブデソニド(パルミコート®)治療を受けた患者(4〜78歳)の肺炎のリスクが低下していた。

Am J Respir Crit Care Med.2011;183(5):589595.

成人の喘息患者で吸入ステロイドを使用することは、肺炎のリスクに対して防御的な効果を示す。

Acta Med Acad2015;44(2):135158.

成人ではどうも喘息の患者さんに吸入ステロイドを使用することは、肺炎に対して悪くはなさそうな印象があります。

 

ただ子どもで最近こんな研究結果もでました。

定期的に吸入ステロイド治療を受けている小児喘息患者さんで、口腔・咽頭の肺炎球菌によるコロニー形成のリスクが増加する。

Respirology2013;18(2):272277.

肺炎球菌のコロニー形成の増加は、いかにも呼吸器感染症の増加と関連しそうな印象を持ちます。

こんな背景の中、今回のシステマティックレビューが行われました。

 

目的-Objective

喘息の小児における吸入ステロイド使用と肺炎および他の呼吸器感染のリスクとの間の関連性を評価すること。

そのまま書きましたが、少し整理しましょう。今回の研究ではメインの目的とサブの目的を設定しています。

ココがポイント

メインテーマ:小児喘息患者さんで吸入ステロイドの使用と、肺炎のリスクの関係性を評価する

サブテーマ:小児喘息患者さんで吸入ステロイドの使用と、肺炎以外の呼吸器感染のリスクの関連性を評価する

※肺炎以外の呼吸器感染⇒咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、インフルエンザ

 

データソース-Data sources

発足から2015年5月までPubMedにおいてランダム化比較試験について検索しています。

また該当のテーマを扱ったシステマティックレビューについて、Pubmedと中南米カリブ海センターのバーチャルヘルスライブラリを検索しています。これらにはMedline、Cochrane Central Control of Controlled Trials(CENTRAL)を含んだ20以上のデータベースが含まれています。

主要なランダム化比較試験と、該当のシステマティックレビューの参考文献をもとに、著者らが包含基準でもって文献を選んでいます。

また、未発表のものを研究に含めるために、clinical trials.govと製薬メーカーのデータベースも検索しました。

文献の検索方法としては、包括的になされている印象を持ちました。

 

研究の選択-Study selection

喘息の小児において吸入ステロイドとプラセボとを少なくとも4週間比較したランダム化比較試験を選択した。

包含基準は以下の通りです。

包括基準はこれ

(1)研究デザイン:ランダム化化比較試験

(2)参加者:喘息の診断を受けた18歳までの子供

(3)介入および比較:プラセボと比較して、少なくとも4週間の吸入ステロイドを毎日使用する

(4)アウトカム測定:有害事象として報告された少なくとも1回の呼吸器感染症

今回のレビューでは、「放射線検査の有無にかかわらず、臨床的に診断された肺炎」を主な結果として定義しています。ここが残念な点ですが、明確な肺炎の定義がなされていないんですね。そのため肺炎の発生がもれなく拾い上げられているかいうとかなり心配が残ります。

でも検索で出てきた文献で既に肺炎の定義がしっかりされていないため、このレビューでもこのようにデザインせざるを得ない状況だったのだろうなぁと感じます。

二次アウトカムには、咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、細気管支炎、インフルエンザなどの他の呼吸器感染症が含まれていました。

 

データ抽出-Data extraction

Pubmedなどの検索により2756件の試験が見つかり、その後絞り込みを経て39件の試験が適格であると判定された。

この39件の試験には、子どもの喘息患者が13,595人(吸入ステロイド群: 8945人,プラセボ群: 4650人)含まれていた。

そのうちの31件の試験=11,615人の患者(吸入ステロイド群: 7465人,プラセボ群: 4150人)のデータがメタアナリシスに使用された。

かなり規模が大きいメタアナリシスになったということですね。

絞り込みについては、4人の研究者が2つのグループに分けられ各々該当の文献を探し、グループ間で研究選択に関する不一致が起こった時には、全く別の研究者が仲裁し相談で決めるというスタイルをとっていました。

複数の研究者で作業を別に行っているのはレビューを作る上で、信頼性を高める欠かせない手段ですが、別々に行った作業がいったいどれくらい一致していたかについては記載はありませんでした。

もちろん、最終的にレビューに含まれた研究に対する質の評価(=バイアスのリスクの評価)もしっかりされていました。

4人の研究者が独立して、Cochrane Collaboration14の推奨事項に従って6つの主要分野を検証しています。さらにバイアスのリスクの評価に関する意見の相違があった場合は、議論にて解決され、必要があればもう一人別の研究者が仲裁し、相談するという、スタイルです。

バイアスの中では、39件の研究において選択バイアス(シーケンスの生成と割り当ての隠蔽)がほとんどの研究で不明であったということ

結果-Results

肺炎の発生率は、ICS群で0.58%(44/7465)、プラセボ群で1.51%(63/4150)でした。

メインテーマ、サブテーマごとに結果を見ていきましょう。

メインテーマ

小児喘息患者さんで吸入ステロイドの使用と、肺炎のリスクの関係性を評価する

肺炎の発症を記述していた9件の試験のメタアナリシスにより、吸入ステロイドを服用している子どもの喘息患者における肺炎の危険性が減少することが明らかになった(リスク比:0.65; 95%信頼区間[CI] 0.44〜0.94)。

効果の指標としてリスク差を使って全部の31件でメタアナリシスを行うと、吸入ステロイドとプラセボ群の間で肺炎のリスクに有意差は認められなかった(リスク差:-0.1%、95%CI:-0.3%~0.2%)。

 

サブテーマ

小児喘息患者さんで吸入ステロイドの使用と、肺炎以外の呼吸器感染のリスクの関連性を評価する

※肺炎以外の呼吸器感染⇒咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、インフルエンザ

吸入ステロイドの使用による、各種感染症に関するリスクは有意差が無かった。

・咽頭炎のリスク(RR:1.01,  95%信頼区間:0.87-1.18)

・中耳炎のリスク(RR:1.07, 95%信頼区間:0.83-1.37)

・副鼻腔炎のリスク(RR:0.89, 95% 信頼区間:0.76~1.05)

・インフルエンザ(RR:1.12, 95%信頼区間:0.65~1.93)

リスク比(risk ratio:RR)での表現ですが、95%信頼区間が1をまたいでいるときには有意差がないことになります。つまり小児喘息の患者さんに吸入ステロイドを使用していて、各種感染症に関するリスクは上がりも下がりもしないという事です。

 

制限-Limitation

著者らが論文中に述べている研究の制限については以下の2点がありました。

・呼吸器感染症について明確に定義された基準が欠如していること

・出版バイアスの可能性があること

この中で、呼吸器感染症についての定義が欠如していることは冒頭の方でも述べた通り問題です。明確に呼吸器感染症の発生が補足出来ていない可能性があり、レビューの信ぴょう性に影響を及ぼす問題と言えます。

出版バイアスは、研究結果が良いものは公表されやすく、研究結果が悪いものは公表されにくいことから、システマティックレビューで集めた論文が研究結果が良いものが多くなる結果、最終的な結果が歪んでしまう事象を示します。

今研究では、たくさんの研究を組み入れているにもかかわらず、fuunel plotなどの図を用いた出版バイアスの評価をしていないようです。

今回のシステマティックレビューは、外部評価機関である”GRADE”が、最終的なレビューの信ぴょう性を評価していますが、今回の評価はかなり厳しく、上の2点のLimitationについてかなり重くとり、gradeが下がっています。

・メインテーマに関するレビューの信ぴょう性は、low(低い)

・サブテーマに関するレビューの信ぴょう性は moderate(中等度)

と最後の最後でガクッとするような評定が下っています。

 

結論-Conclusion

さて、長い文章にお付き合い頂きましたが、今回の吸入ステロイドを使用している小児ぜんそく患者さんにおける呼吸器感染症のリスクについて、最終的な結論はどうなっているでしょうか。

今回の吸入ステロイドの定期的な使用は、喘息の小児における肺炎または他の呼吸器感染症のリスクを増加させないかもしれない。

かなり弱気な結論になっています。やはり出版バイアスの傷は大きかったか…と言ったところでしょうか。

 

この結果僕の患者さんに当てはめてよいの?

今回の論文を読んで、自分の患者さん達に情報を取り入れる上で注意しておく点を書いておきます。

吸入ステロイドの量が日本と海外で大きく違わないか

5種の吸入ステロイド(ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、フルチカゾンおよびモメタゾン)は、低または中等量で使用され他との記載がありました。具体的な投与量を見てみると、

2種類以上のICSの日用量を比較した17回の試験がメタアナリシスにデータを寄与していた。

5件の研究ではフルチカゾン(フルタイド®)(100 ug/日 対 200 μg/日)を使用した。

3件の研究ではブデソニド(パルミコート®)(200-500 ug/日 対 400-1000 μg/日)を使用した。

1件の研究ではベクロメタゾン(キュバール®)(100 ug/日 対 200 ug/日)を使用した。

5件の研究ではシクレソニド(オルベスコ®)(50-100 ug/日 対 100-200 μg/日)を使用した。

3件の研究では1日3種類の投与量が比較されていた。そのうち2件の試験ではシクレソニド(オルベスコ®)(50,100,200μg/日)を使用した。1件の試行ではモメタゾン(アズマネックス®)(200,400,800μg/日)を使用した。

これらは2017年小児気管支喘息治療・管理ガイドラインを参照しますと、だいたい日本の低用量~中等量と同等と考えて良さそうでした。

 

どんな患者さんに当てはめたらいいの?

このレビューでは吸入ステロイド+他の薬物を使用した試験は含まれていません。

吸入ステロイドと長時間作用型β2アゴニスト(アドエア®など)または他の薬物を服用している患者にこのレビューの結果を外挿する際には注意が必要だろうと感じます。

 

それで結局何が分かった??

最終的に僕の受け取った”メッセージ”を最後に示しておこうと思います。

結局、何が分かった?

少なくとも、吸入ステロイドを喘息のお子さんに使うことで、現状、呼吸器感染症のリスクがあがるという報告はない。

これくらいの捉え方が良いのではないでしょうか。吸入ステロイドを使用すると肺炎のリスクが下がるとまでは言いにくそうです。

今回は以上となります。何かのお役に立てれば幸いです。

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